ラ・サール学園における
新型コロナウィルス感染症への対応について

教頭 宮崎利広

宮崎利広教頭の写真|ラ・サール学園同窓会
ラ・サール学園における新型コロナウィルス感染症への対応について経過をお伝えします。

1.3月の全国一斉休校について

新型コロナウィルス感染症拡大防止対策として、安倍晋三首相による全国一斉休校要請 [3月2日(月) ~ 春休みの期間の休校を2月27日(木) 発表] が出されたが、県内ではまだ感染者は報告されていなかったので、本校は感染症予防対策(マスク着用・手指消毒・換気・机等の消毒など)を徹底した上で、休校とせず時差登校及び短縮授業(寮・下宿生は8時半、自宅生は9時半登校とし、9時45分から45分受業を6時間目まで行い15時35分で授業を終了、混雑を避けて自宅生を下校させた)を実施した。
行事予定通り3月14日(土)学年末考査を終了し中学1・2年生と高校生は終業式を行い、春休みに入った。中学3年生は翌15日(日)に卒業式を卒業生と教職員のみの参加で実施し、その後春休みに入った。
休校を実施しなかったのは、鹿児島県でラ・サール学園のみであった。

2.ラ・サール学園で新型コロナウィルス感染症の陽性者が確認されたことについて

4月1日(水)の時点で鹿児島県の感染者は2件しか報告されていなかったので、関東地区など感染者が多い地域からは、新学期を早く始めて欲しいという意見が学校に寄せられていた。新学期新入生を受け入れるにあたり、2日(木)の職員会議で新学期の対応について話し合われたが、予定通り通常の形で新学期を開始したいという意見と開始を見合わせるべきであるという意見でなかなかまとまらなかった。最終的にコロナ対策として直近の1週間健康であった者のみ鹿児島への移動を認め、4月3日(金)入寮式・4日(土)入学式を実施した。在校生については、4月1日(水)から一週間きちんと健康観察を行い、健康であった者のみ7日(火)の移動を認め、8日(水)始業式とすることにし、緊急一斉メールで伝えた。新入生については、コロナによる急な変更等がある旨予め伝えていたので、大きな混乱はなかったが、在校生は6日(月)始業式の予定であったため移動手段の変更等混乱を招いていた。
6日(月) 中1高1のみ時差登校・短縮授業を開始した。一方で政府が緊急事態宣言を4月7日(火)から5月6日(水)までの1か月間、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、及び福岡県の7都府県で実施するとの情報があり、当日緊急職員会議を開き中1高1以外を5月6日(水)まで休校とした。始業式が当初6日の予定であったため、5日(日)のチケットが変更できなかった生徒達(高3:24名、高2:8名、中3:8名、中2:16名)が、既に鹿児島へ移動してきていた。
6日(月)・7日(火)と新入生には授業が行われた。7日夕方18時半頃寮に保護者から「高1寮生の家族に陽性者が確認され、保健所の指示で濃厚接触者の当該生徒を隔離するよう指示された」と連絡が入った。連絡を受けた寮教諭が教頭へ連絡した。教頭は鹿児島市の保健所に報告し指示を仰いだ。個室の病室で隔離し、明日PCR検査を実施するとのことであった。8日(水)PCRの検査結果で陽性と確認された。
無症状感染であったが、8日夜保健所が病院へ移送し入院させた。
授業を開始していた中1高1も5月6日(水)まで休校とし、高1寮生・自宅生共に2週間の健康観察を行った。幸いにも感染者は1名にとどまり、感染が拡大することはなかった。

3.感染者の公表について

8日(水)夜、保健所からの電話で9時頃から鹿児島市長の記者会見が行われる予定であるが、個人のプライバシーを保護するために学校名等伏せて「福岡から移動してきた10代男性の感染」のみ公表するとのことで、ラ・サール学園として公表する必要はないと伝えられた。
学校としてどのように対応するか校長を始め管理職や各部長及び集まった教職員で相談した。地域住民や県民の感情を考慮し、今後学校の責任のもと感染拡大防止に努めなければならないので、ホームページ上で公表することにした。20時頃からテレビのテロップで「10代男性の感染」と「21時頃から鹿児島市長の記者会見が実施される」ことが流れると、インターネット上ではラ・サール生に感染者が出たとの書き込みが多数なされていた。9時15分から市長の記者会見が有り、市長の報告後9時20分に学園ホームページ上で、本校生徒から新型コロナウィルス感染症の陽性者が出たことを公表した。公表後数分でホームページはダウンし、開けなかった。
報道関係者が学校に詰めかけ校舎内の教職員も外に出られない状態だったので、深夜23時正門前で教頭から報道関係者に事実関係を伝えた。県内4例目、鹿児島市内初ということで、即マスコミ等で大々的に報じられた。翌9日(木)も朝から報道関係者が詰めかけていたため、15時頃正門前で教務部長と教頭の二人で、改めて報道関係者に事実関係を伝え、質問に答えた。

4.寮生の健康観察について

4月9日学校及び寮に保健所職員3名が入り、寮や学校での活動実態の確認と今後の寮生への対応が検討された。
陽性者との濃厚接触者はいないとの判断ではあったが、当該生徒と食事を一緒に食べたり、行動を密にした生徒達17名にPCR検査を実施した。10日には全員陰性が確認された。
9日から寮生自宅生共に2週間の健康観察が実施された。自宅生は自宅待機となったが、寮生には他室訪問が禁止され、厳しい行動制限がなされた。疎の状態を作るため、食事や風呂の時間を変えたり、食事後の消毒など感染予防に努めた。
高校1年生は個室に閉じこもった生活のため、ストレスも高まった。生徒達のストレスを軽減すべく、教職員が見回りをかねて声掛けや話し相手となったり、読書用に単行本や新聞の切り抜きを印刷したものを準備したりした。また、寮通信を発行し、その中で同窓生から送られた励ましの言葉等を掲載し配布した。
1週間を過ぎる頃から校内の散歩や運動等が徐々に認められ、徐々にストレスも軽減された。2週間寮内での健康観察は生徒達にとって非常に過酷なものであった。
その様な辛い思いをしている中で、マスク・本・お菓子など沢山の差し入れや励ましの手紙があり、非常に有り難かった。

5.学校への苦情について

4月2日ラ・サールに入学するために移動してきたのであろうと思われる県外ナンバーの車を見つけただけで、学校事務室へ苦情の電話が何件も寄せられた。内容は「何故県外から移動させるのか?地域住民を殺す気か?」といったものであった。その後3日入寮式4日入学式と同じような苦情が多数寄せられ、中には大変長い時間に及ぶものもあった。
感染者公表後の9日午前中ラ・サールで感染者が出たことに対して、非常に激しい苦情が多数寄せられ、事務職員が対応に追われた。

6.差別的な状況について

4月9日以降、まだ登校もせず感染に全く関係の無い生徒達も含めてラ・サール中学高等学校在校生の兄弟は、通学を拒否された。教職員の家族も出勤や通学が止められた。その中には、出勤を2週間止められたうえ、欠勤扱いで給料を差し引かれたケースもあった。
校門付近で職員に対して、「息を止めろ!俺たちを殺す気か?」と大声で罵声を浴びせる近隣住民もいた。
休校中であった高2・3が公立の図書館で自習しようとした際、「ラ・サール生だろう、出て行きなさい」と追い出され、感染に関係が無いことを説明しても聞き入れてもらえなかった生徒もいた。
中学高校共に入学したばかりの自宅生においては、近隣住民から非難され自宅外へ一歩も出られない生徒もいた。
差別的な対応を受け、鹿児島市保健所の勧めでその状況をまとめ、鹿児島市教育委員会へ兄弟等が登校できるように対応の改善を求めた。間もなく鹿児島市森市長により差別的な対応に対する改善を求める声明がHPに公表された。学校としては、非常に有り難かった。多くの学校が4日間の出校停止とし、兄弟等が登校できるようになった。

7.休校中の学習支援について

緊急一斉メールと個別の電話で、休校中の学習支援の対応を伝え、最低2週間に一度は連絡をとったり、郵送で学習教材等を届けた。一学年の学習教材をレターパックに封入するのに約半日かかり、その量も軽トラックで郵便局に届けるほどだった。
各家庭にインターネット環境の調査を行い、5月以降の在宅学習期間に向けて、Web配信に向けた準備も同時に行った。環境が整った学年は順次グーグル・クラスルームなどを利用して、毎日SHRを実施したり、一部教材を配信したりした。休校期間後半に於いて、学年によっては数学の解説を配信したり幾つかの教科で課題の提出を課すなど、徐々にその利用も増えていった。
学習支援は4月当初から6月14日まで行われた。

8.入寮者の帰省について

新中学1年生は殆ど高校生と接触がなかったので、保健所の判断で4月3日入寮式の日から2週間後の17日から、車で迎えに来られた生徒について帰省することを認めた。高校1年生は9日から22日まで健康観察が行われ、感染者は確認されなかったので、23日より希望する生徒の帰省を認めた。その際、出来る限り車で迎えに来ていただいたが、帰省は不要不急の外出に当たらないのでやむを得ない場合には公共交通機関の利用も認めた。実際新幹線も航空機もこの期間は他の乗客が殆どおらず、移動中感染するリスクは低かった。

9.寮生・自宅生の学校での自習について

新入生の中で中1約50名、高1約30名が帰省せず寮生活を続けた。寮生の帰省を認めた後、寮生の学校での自習を始めた。時間割を組み、自習時間と運動の時間、図書館や映画鑑賞時間など感染予防に配慮しながら実施した。
鹿児島県の県立学校は4月17日(金)頃から5月10日(日)まで休校で、11日(月)から学校での授業を再開した。寮生の自習が続く中、自宅生の希望者を5月16日(土)から登校させ自習させた。その際、車での送迎をお願いし、寮生と別々に分けて自習や運動等をさせた。また、各学年ごとに日を指定し、自宅生に登校日を設け学習や精神面のケアを行った。

10.学校再開プログラムについて

5月5日鹿児島県知事より、県外出身の寮生は寮以外の施設で2週間健康観察をしてから入寮するよう要請が出された。
県民感情を考慮し県知事の要請を受け入れ、寮以外の施設で健康観察を行う、学校再開プログラムを鹿児島市保健所と相談しながら検討した。約800人の寮生・下宿生を抱えていたが、約80人は4月から帰省せず寮に残っており、加えて18名が県内寮生であったので、県外から移動して来る約700人が対象となった。
県立楠隼中学高等学校が県の3施設を使用して、健康観察を実施する情報を得たので、県の施設利用をお願いしたが、聞き入れてもらえなかった。
ホテルは当時休業中のため受け入れていただけるホテルを探したり、生徒達の移動日時や移動手段の確認、そして空港や鹿児島中央駅からホテルまで貸切バスの手配など短期間で取りまとめるのに非常に大変であった。県内の4ヶ所のホテル等で寮生・下宿生を5月23日より日をずらしながら職員も一緒に泊まり込み、2週間の健康観察を実施した。6月14日(日)までに寮生・下宿生の予定していた健康観察を終えた。
また、学校再開プログラムに発熱等の健康不良等でなかなか参加できない生徒が、参加日をずらしたため、再開プログラムは6月18日(木)まで行われた。
学校再開プログラムを終了し、6月15日(月)から学校で短縮授業が行われた。22日(月)より、通常時間帯で授業を行った。生徒達も日常の学校生活に戻りつつあることに、大変喜んでいた。

11.中止や変更になった行事について

学内の予定していた行事も聖ラ・サールの日の講演をはじめ6月の文化祭など中止した。中体連大会や高体連大会及び高文連大会の全国大会を始め県内大会もほぼ全ての大会が中止となった。
各同窓会支部総会が中止となり、各地区でのラ・サール学園学校説明会も中止となった。6月のPTA面談も中止し、延期して実施する予定であったPTA総会も行われなかった。
7月は中2高1EFの野外活動も中止した。
休校期間中の授業の時間を取り戻すため、夏休みを返上し授業を実施した。8月夏休み期間は、お盆休みの13日から16日の4日間であった。その間寮生・下宿生は原則帰省を禁止し、カフェでの面会や保護者との外出を認めたが、外泊は禁止とした。
9月13日(日)第71回ラ・サール学園体育祭を無観客で実施し、保護者やラ・サール学園関係者向けにLIVE配信を行った。その視聴者は世界19ヶ国から、のべ4万回を超えるアクセス数であった。今年度初めて行事を行うことが出来、生徒達も喜んでいた。
通常校外で実施される観劇会は、今年度中の実施は見込めず、その代わり狂言教室を密を避けるために中学高校別々にヨセフホールで実施した。なお、同窓会より70周年記念事業として、費用を贈呈していただいた。
例年6月に行われている母の会主催の進路講演会を10月にWeb配信を行った。多くの保護者の方々が視聴し好評を得、来年以降もWeb配信を希望する声が多く寄せられた。11月に予定されていた中1・高1新入生のPTA三者面談を他の学年に先行する形で、県内生は学校で、県外生についてはZoomを用いて、10月に実施した。他の学年も同様に、11月に三者面談を実施した。11月1日(日)の入試説明会はWeb上で予約し、県内の方々については授業参観と入試説明会の参加を認めたが、県外の方々については、Web配信による学校・寮案内と入試説明会とした。
11月のクラスマッチも通常は二日の日程であるが、今年度は高校3年生については一日のみの参加として実施された。

12.最後に

今回のラ・サール学園のコロナに関する様々な出来事を振り返り反省すべきことや学園の抱える課題が見えてきた。
先ず、新学期を始めるにあたり新入生本人に直近の一週間の健康観察を求め、本人が健康であった場合移動や入寮を認めたが、今回のような無症状感染を想定しておらず大いに反省させられた。新型コロナウィルスに関しては現段階で感染を100%防止する術はないが、同居する家族の健康状態についても配慮するべきであった。
反省をもとに冬休み後新学期を始めるにあたり早速対応を改め、冬休み期間中同居する家族全員の健康観察をお願いし、家族全員が健康であった者のみ鹿児島への移動を認めた。発熱等体調不良があった場合、治癒してから1週間健康を確認してから鹿児島への移動を許可した。
三学期をスタートするにあたり、寮生の食事や入浴を密にならないように時間やグループを分けて対応した。また、学校においても昼食時寮生・下宿生・自宅生の昼食場所を分け、食事中の飛沫感染を予防するため無言で昼食を摂らせた。時差登校や短縮授業そして換気やマスク着用の徹底など感染予防に努め、どうにか無事に感染者を出すことなく1月を終えることが出来た。
また、学校や寮生活を行うにあたり、特に中学寮の8人部屋については密を避けることが出来ないことが、今回のコロナ禍において大きなリスクであることが判明した。今までは今回のような感染症対策は考慮されておらず、精々病室を個室と大部屋で、他の生徒と距離を置く程度しか配慮されていなかった。本来は生徒の育成にとって本校のストロングポイントであるはずの濃密な体験の共有がしづらくなってしまったことに、今後どう対応していくのかは、本校にとって大きな課題である。また、この様な事態に対してのガイドライン等整備されていなかったこともあげられる。いずれにせよ現状の分析と反省をもとに、今後可能な限り最善を尽くしていきたい。
なお、今後国の要請等により休校期間を設けざるを得なくなってしまった場合も想定し、教員全員にiPadを配布し、各教室にWi-Fiを導入したり、プロジェクターやスクリーン、生徒用の端末なども用意をし、研修等も行うなど、ハード・ソフトの両面で適宜準備を進めているが、本校の教育に相応しい内容をどうすれば生徒達に提供できるかを、職員全体で模索しているところである。
一方良かった事としては、陽性者発生後鹿児島県ではラ・サール学園に対する誹謗中傷など激しい状況の中、学内では最初から感染者を非難するような発言等一言も聞かれず「流石ラ・サール学園である」と、お褒めの言葉を鹿児島市保健所担当医師より頂戴した。当該生徒が退学になったなどの噂が飛び交っているが、その様な事実は全くなく、明るく元気に学校生活を楽しんでいるのが実情である。これらのことは私達にとっては当然のことながら、改めてラ・サールのファミリースピリットは健在だったと誇らしく感じている。
最後になったが、今回新型コロナウィルス感染症により多くの同窓生やラ・サール学園関係の皆様方にご心配をおかけした。何時もながら同窓生の皆様方には、マスクの差し入れやその他様々なご支援を賜り誠に感謝している。この場をお借りして心より厚く御礼申し上げる。本当に有り難うございました。